コトバ

道化師の就寝

余儀なくカモフラージュ

踏み込まれた他人を

自分の奥に導かぬように


震えて震えて

凍えてうずくまる自分を

見透かされぬように


そして出来上がった道化師は

この世界に溶け込むことは決してない

弱さは時として世界を結ぶ鍵となり

強さは時として世界を拒絶する壁となる

鍵を持たない道化師は

今日も星を眺め眠るのでした

コトバ

およそ15分の劇情

暖かな色を放ち夜道を照らす水銀灯

わいてでた虫が瞬間瞬間に光の中に現れる

昼間の賑やかさが嘘のような小学校わきの道を下り

線路沿いの道に出る

しばらくすれば線路越しに貨物業者の工場が見えてくる

人類の発明器具をふんだんに使って

時間という概念に逆らいながら煌々と灯りを点しながら働く人々

そして僕は線路を渡り

パン屋の横の交差点を渡る

徒歩5分の不動産屋のちらしに騙されたために

生み出されたこの15分の劇情は

毎日違う脚本家が結末を書き換える

コトバ

健やかなる眠りを

あなたと共に生きている

あなたを感じて生きている

あなたに恥じぬよう生きている

だから安心して天から見守っていて下さい

どうか健やかなる眠りを

コトバ 写真

紫陽花が雨で奏でる春への別れ

紫陽花が雨で奏でる春への別れ

そんな季節の話


窓に写るは雨に打たれるオープンテラス

規則正しく並べられた白いテーブルと椅子に混じって

紫陽花は雨でより一層妖艶さを増していた


久しぶりの再会は

そんな都内某所のカフェだった

奥から三番目の窓際の席

昔と同じように君と向かいあう

君はオレンジピールの入ったダージリン

僕はキャラメルマキアート

限りなく表層の部分は少しも変わっていない


平日の午後3時

客足の途絶えた店内には

マスターが暇潰しに捲る新聞の音が

不規則なリズムで響いていた

君は何も語らない

僕も何も語らない



二人に降り注ぐ時間は

音もなく最後の一幕を閉じていく

言葉を奏でる隙も与えられてくれなかった




それでも雨で花を揺らし

可憐に咲き誇るは紫陽花




紫陽花が雨で奏でる春への別れ

あんなに可憐に咲きながら

あんなに可憐に咲きながら

コトバ

オマージュ

きっと僕らは誰かのオマージュ

オリジナルなんてものは

限りない天才にしか与えられないだ

だから今思い付いたアイデアも

今口づさんだ緩やかな旋律も

今不規則に置かれた絵筆の紋様も

これまでの貴重な出逢いで

作り出された誰かのオマージュ

だけど君は悲観的でない呼吸すればいいんだ

オマージュされた世界の中心軸で

コトバ

ゴールドチェイン

今日は降り注ぐ雨もゴールド

アスファルトに叩かれできた飛沫もゴールド

ビニール傘にこびりついた水滴もゴールド

素敵さは加減を知らず

僕を中心に地球は回った

そうか世界はこんなに素敵だったんだ

繋がれ素敵なゴールドチェイン

コトバ

アングリ

君はヒステリックにアングリー

僕はどうにもできず口をアングリ

コトバ

リバーシブル

君はいくつものリバーシブル

器用に着こなしてしまうから

表がどれだかわからない

だけど僕は知ってるんだ

裏生地に隠された

縺れた糸の行く末を

コトバ

我輩。

コーヒーの匂いがかすめたから

朝だと気付くのにそう時間はかからなかった

朝はゆっくりしたいから、って

必要以上に早く目覚める君

根拠のない低血圧を理由に

これまでの人生を生きてきた僕には信じられない光景だ


朝を独り占めしたかのように

その時間を楽しんでいるのかと思いきや

今日も泣いた涙の後が傷のように残ってる



まだ泣いているの?

もう充分じゃない?



いつも以上にいつもを演じる君

僕はつらくてその顔を見てられないから

そっと君の横に座って

一緒にテレビに映るニュースキャスターを眺めるんだ

そうしているうちに

君はいつのまにか化粧も着替えも終わっていて

僕は君を見送りにいつもどおり玄関へ


君は決まって僕を三回撫でてから玄関をでる

僕は素直に受け入れる



僕は人間の言葉はわかるけど

自分では喋ることができないから

おとなしく見送るしかできない

けどいつでも君の帰りを待ってるからね

どんな時も君の帰りを待ってるからね

だから安心して、いってらっしゃい


僕は君の心のペット

いつでも君を見守るペット

コトバ 写真

アンドロメダ

僕が生きるこの銀河と

仮想の僕が生きるアンドロメダ

現実世界で星が星を呼び銀河を作り上げるように

僕のアンドロメダももう随分と大きくなった

いつかひとつの銀河へと結びつく日はくるのだろうか

コトバ

記憶の香り

記憶が香った

甘酸っぱくて

ちょっと苦い香り

コトバ

運命と未来と犯罪と平和と現実

運命とは束縛の種類

未来とは空想の種類

現実に持ち込んだところで無意味

解き放つことは犯罪

埋もれることが平和

現実という秩序はそうして保たれる

コトバ

誰が作ったかわからない詩

誰が作ったかわからない詩が

語り継がれるように

どんな戯れ言を並べたって

結果がすべてなんだ

結果よりも大切なものを語る者が現れたのなら

まずは疑って間違いないだろう

それは疑いようのない結果

コトバ

キヅ

傷つけながら生き延びていることに

気付きながら生き延びて

コトバ

一秒も無駄にしたくない

そう思う気持ちが

結果的に命を削っていったんだ

床に滲むは

ポタッと落ちた最後の雫

コトバ

ヘドロ

お前はヘドロのような人間だな

と言われた

ドブの中で犇めいてろ

と言われた

だとしたら

いつか地球を滅ぼせますけど

なにか?

コトバ

オンオフのある人

エンジンを切った

そしてただの塊になった

それを羨ましいなんて

これっぽっちも思わないのだけど

コトバ

活字主人公

活字が蠢くこの世界で

主人公として生きるこの人物は

あと何ページで終末を迎えるのか

知っているのだろうか

そして刻んでいく台詞が

永遠のものとして残っていくことを

知っているのだろうか

コトバ

最後の秒針

さよならに似たありがとう

微かに揺れた最後の秒針

コトバ

ただいま

ただいま

そう言える幸せと

おかえりと返してくれる幸せ

コトバ

鯉のぼり

屋根より高い鯉のぼり

深くて青い空の海を

何処までも登り続けてね


君のように止まない心で

僕も頑張るから