コトバ

その灰色の影は

口から体内に入って

細胞の中へ吸収されていった

そして死神へと姿をかえる

コトバ

コインゲーム

オモチャのコイン

緑色のコイン

幼き頃から

ずっと握り締めていたその手を

開いてごらん

音もなく落ちていくから

追ってはいけない

この深い谷底を

永遠に彷徨うだけだから

手に入れればいいんです

本当の金貨を

コトバ

長靴

その黄色い長靴は

ごみ捨て場で泣いていた

記憶が残酷に姿をあらわしたのだろう

現実をうけとめることができないのだろう

コトバ

そこにあるもの

彎曲した白いガードレール

それは虹の形と同じだった

排水溝のブロックを

一個とばしで歩いてみる

路上駐車禁止の標識

その上に烏がとまってた

つまりこれが憧憬で

つまりこれが背伸びしていない現実

コトバ

脆さ

伝えたいことはあるけれど

それはそっとしまっておく

ガラス玉なのか

シャボン玉なのかさえ

わからないから

コトバ

二足歩行

もしかしたら

ただ確かめていないだけで

本当はすごい動物なのかもしれない

怒りや悲しみも

時に消化できる

この二足歩行の動物は

コトバ

歯車

どんなに近付いたって

きちっとかみ合う歯車なんてないんだからね

でもこの時計はちゃんと時を刻んでるでしょ

それはね

それぞれの歯車がみんな針を動かそうと思ってるからなんだ

所詮は他人

重なることはない

けど

目的なら共有できるんだ

コトバ 写真

蜃気楼

やさしさの蜃気楼

嘘を信じていたかった

コトバ

工場

窓から見える工場には

昼も夜も人影はない

何も生み出さない

朽ち果てた工場

コトバ

ギター

一本切れたギターの弦

たった一本だけなのに

演奏できないなんて

コトバ 写真

伝える気持ち

伝わらないから伝えないのでなく

伝えたいから伝えない

コトバ

墓前にて

星の浮かばぬ宙を見た

少年によって殺された人達も

予期せぬ事故で亡くなった人達も

臨終を看とられずに逝った老人達も

みんなみんなあの宙へ消えていったのなら

せめて星のひとつも飾ってくれないか

星の浮かばぬ宙を見た

コトバ

深呼吸、そして乗換え

深呼吸をひとつ

そこが今までの終着駅

深呼吸をもうひとつ

そこがこれからの始発駅

コトバ

罪の行く末

赤信号を渡った

危険を犯した

合図を無視してまで

手に入れたものは

いったいなんだったんだろう

コトバ 写真

無駄

無駄なことはないという言葉の無駄

コトバ

こうしてここにいること

取り乱した時に思い出すは

深く刻まれた

昨日までの痛み

コトバ 写真

気に入らない唇

あなたの唇を

ザラザラのペーパータオルで

拭って拭って拭い尽くす

コトバ

ぐるるるる

あの日の質問が

ぐるるるる

答えは出なくて

ぐるるるる

コトバ

主張

戻れないじゃない

戻らないんだ

許せないんじゃない

許さないんだ

コトバ

雑音

どうしても消せない雑音

今はこのチェロの音色聞きたいんだ

なんで邪魔をするんだ