コトバ 写真

降り始めの雪

愛は降り始めの雪

掴んだと思っても

手の中には何もない


それくらい不確かなものだから

手に入れたとか

失ったとか

そんなことは

そもそも意味がないのかもしれない


愛は降り始めの雪

掴んだと思っても

手の中には何もない


けれど雪はいつか積もる

そんな日が訪れますように

貴方が愛で溢れますように







コトバ 写真

背景

味気ない人生を

華やかに魅せるために

できるだけ背景を描きこんでいく


オフィーリアが

溺れ死ぬ前に

華やかな世界に囲まれたように


悲しいくらい無能な自分でも

背景が華やかであれば

きっと素敵な人生だったって

笑って死んでいけるのではないだろうか


コトバ 写真

自分

欲しがることをやめた

きっと手に入らないから

悲しくなるだけだから


優しくなることをやめた

きっと裏切られるだけだから

悲しくなるだけだから


素直になることをやめた

きっと騙されるだけだから

悲しくなるだけだから


生まれてきたままの自分をやめた

きっと自分は受け入れられないから

悲しくなるだけだから


自分は自分と言える人たちは

きっと強い人たちなんだと思う

コトバ 写真

ハリネズミ

自己顕示という

鋭い針を他人に向けて

なんとか自己を保っている


自己を保てば

他人の心を針で刺し

結局他人は離れていく


それが彼の性格といってしまえば

それまでなんだけど


きっと刺していることはわかっている

痛みはわからないだろうけど


彼は悲しきハリネズミ





コトバ 写真

賞味期限


目の前に与えられた

賞味期限切れの

ガラスでできた幸せは

すぐに価値のないものになるのだろうけど

大切に大切に

少しでも長く余韻に浸っていたいんだ


論理的に考えれば

今がよければそれでいい

なんて考えはやめた方がいいとは思う

でもね

わかっているけどやめられない

コトバ 写真

追い焚き機能

気持ちが冷めてしまったらしい

追い焚き機能はどこにあるの

コトバ 写真

デジカメ

デジカメは

この世界の一瞬を

簡単に切り取ることができる



何気ない気持ちで

シャッターを押せば

一瞬が永遠に残る


懐かしさを通り越して

生々しさを感じるほどに

残り続ける


この写真に映る自分は

何を考えていたのだろう


一度きりの人生

誰もが口にするような

ありふれた言葉だけど

今やっとその意味がわかる気がする


写真の自分は

果てしなく広がる未来に

多少の無駄や回り道も

別に大したことないと感じている


でも今の自分は違うんだ


未来には期限がある

期限があるから焦りがある

だから一瞬が狂おしいほどに大切なんだ


シャッターを押しても

手に入らないこの一瞬を愛そう

コトバ 写真

チーク

今日はチークが濃すぎた

普段の私と

今日の私を

見比べる人なんて

どこにもいないのだから

別にどうでもいいのだけど

コトバ 写真

裏口

優しさを押し売りするセールスマンが

インターホンの画面越しに確認できたので

裏口から逃げたいと思います

コトバ 写真

眼鏡

眼鏡よ

眼鏡

この世界から

見たくないものを

見せないようにしてください



眼鏡よ

眼鏡

せめて醜いものを

美しいもののように見せてください


眼鏡よ

眼鏡

何もかもをゆがませて

原型もわからないほどに

コトバ 写真

ニュースキャスター

得意気に正義を振りかざし

乏しい想像力で動機を推測し

解決気分に浸って満足する


今日もニュースキャスターは

高貴なフォークを上手に使って

他人の傷口をえぐり尽くし

ごちそうさまと幕を閉じる

コトバ 写真

ひとつ

触れて気付く

皮膚の隔たり


身体が邪魔になる


ひとつになれない

もどかしさ





コトバ 写真

宇宙

宇宙服が邪魔だから

上質な生地のドレスを纏おう


遠い太陽の灯りで

大切な愛読書を読もう


本物の流星群が飾る壁紙に囲まれて

Mr.Childrenの曲を流そう


すべてが終わる前だからこそ

日常を噛み締めよう


コトバ 写真

果実

その果実は

打ちつける冷たい雨に耐えて

太陽をたくさん浴びて

ここまで育ってきた


実りの頃

ついに収穫がはじまる


今か今かと

収穫を待っている者達の中には

不安と焦りを混ぜ合わせた

耐え難い空気が流れはじめる


しかし収穫は一瞬で

悲しいほどに

ほとんどが運任せ

夢見た瞬間とは程遠い


さらに運命はその後も続く

収穫をゴールと思った者達は

その後どう調理されるか

想像すらしていなかった

中には収穫されたにも関わらず

食べられずに棄てられていく


その果実は

打ちつける冷たい雨に耐えて

太陽をたくさん浴びて

ここまで育ってきた


収穫が全てではない

果実は自分を大切にしようと思った








コトバ 写真

涙の跡

いつしか涙は渇いて

傷のような跡を残していた


その跡は

心臓まで達していて

鼓動するたびに

酷く痛んだ


もうすぐ

もうすぐだと思う


そうやって

根拠のない希望を設定し

痛みに耐えてきた


こんな自分を

どうしようもなく思う日も

あるかもしれない


でもね

たぶんこの世界の多くの人は

同じように生きていると思う


涙の跡が乾いた貴方の手を

そっと握りしめる

そしてこう語りかけた

もうすぐ

もうすぐだと思う

コトバ 写真

北極星


寝る時間を惜しんで

懸命に自分の居場所を確保する


他人に尽くすためには

それと天秤にはかれるくらい

自分を維持する必要がある


世界の地軸に対して

垂直に伸びる平均台

ぐらついても落ちないように


神経は摩耗していき

喉は唾が音をたてて胃に落ちる


それでも北極星は消えていない

いつかすべてが終わった日でも

北極星は消えていないだろう

コトバ 写真

要するに

要するに が

口ぐせのあなた

要するに

何が言いたいの

コトバ 写真

遅延

只今脳が遅延しております

復旧まで今しばらくお待ち下さい

コトバ 写真

ルールとループ

ルールを守らないというルール

そのルールを守らなかったら

ルールを守ることになる

というループ

コトバ 写真

ナマ

懐かしいと感じていないならば

その時間は途切れていないということ


ずっと繋がり続けている時間は

生暖かいし湿っている


でもどんどん腐りやすくなっているから

気を付けてね

コトバ 写真

着信

あの頃

着信がある度に

どんな言葉が書かれているか

見ること自体が怖かった


もう怖くない

やっと自由を手に入れた


鳴らない携帯電話

自由は悲しいみたい

コトバ 写真

そろりそろり

君がぐっすり寝ているから

音をたてないように

そろりそろり


今君が幸せを幸せとして

感じることができたのなら

それは守ってくれる人が

周りにいてくれたからこそ


音をたてないように

そろりそろり

コトバ 写真

スマホ

真夜中の話

不必要なまでの明るい液晶が

暗闇に顔を浮かび上がらせている


きっとあなたは今

とてつもなく広い世界と

繋がっているのだろうけど

この暗闇で満たされた空間とは

繋がっていない


だからあなたは

ここにいるけど

ここにいない

コトバ 写真

極限の状態となった


しかし君には

その認識がないらしい


すべてのことに

注文をつけてくる


ひとつ言わせてください


喉が渇いたのなら水を飲め

それが嫌なら何も飲むな

コトバ 写真

鼓膜

見え透いた嘘が

鼓膜を振動し続ける


言い訳という無駄な時間が

もうどのくらい経過しただろう



コトバ 写真

かけることば

もう放っておいて


頑張れとか

元気出してとか


簡単に言葉で表現できるような

軽薄で偽善的な取り繕いはいらないの




コトバ 写真

新月

言うなれば闇

光という光が

すべて消え去っていった


それでも進めというの?

どこに進めというの?


今宵は新月

今は闇でも

時がたてば

日が昇る

ここで待つというのも

立派な選択肢だ

コトバ 写真

家訓

我が家の家訓は

お腹を満たせば大抵のことはできる

だった


悲しみに打ちひしがれたときも

温かい食事を食卓に並べて

皆でお腹いっぱい食べたものだ


さぁ食事にしよう