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好きという感情
深夜に再放送で流れた白黒の無声映画
1920年代という
狂騒の時代背景の中で
若者が明るく奮闘する群像劇
君は二人がけの赤いソファに座って
レモンを浮かべたホットワインを飲みながら
静かに画面を見つめていた
15分くらい経った頃だろうか
君は消え入るような声で
この映画が好き
と言葉を漏らした
僕はある種の違和感を感じ
特に答えることはしなかった
僕は知っている
この映画は何とも言えない
悲劇的な結末を迎えることを
君のスマホは何かを受信したようで
さっきから赤い光が点滅している
でも君は目もくれない
映画は終盤となった
若者が全てを失って絶望する様を
大人たちが冷笑して幕を閉じる
やっぱりこの結末は後味が悪い
映画が終わっても
しばらく君は無言だった
そして
やっぱりこの映画が好き
と言った
僕は驚いた
この映画のどこが好きなの?
なんて野暮な質問はできなかった
音もない 色もない
そんな世界で
君は好きと言ったのだ
論理的に整理しようとしている自分が
馬鹿らしくなった
きっと好きという感情に
要素なんてないんだ
気が付くと
僕のホットワインは
一口も飲まないまま
冷めていた
無意味な思考が宙を舞う