好きという感情

2018年12月31日月曜日

コトバ 写真

深夜に再放送で流れた

白黒の無声映画


1920年代という

狂騒の時代背景の中で

若者が明るく奮闘する群像劇


君は二人がけの赤いソファに座って

レモンを浮かべたホットワインを飲みながら

静かに画面を見つめていた


15分くらい経った頃だろうか

君は消え入るような声で

この映画が好き

と言葉を漏らした


僕はある種の違和感を感じ

特に答えることはしなかった


僕は知っている

この映画は何とも言えない

悲劇的な結末を迎えることを


君のスマホは何かを受信したようで

さっきから赤い光が点滅している

でも君は目もくれない


映画は終盤となった

若者が全てを失って絶望する様を

大人たちが冷笑して幕を閉じる

やっぱりこの結末は後味が悪い


映画が終わっても

しばらく君は無言だった

そして

やっぱりこの映画が好き

と言った


僕は驚いた

この映画のどこが好きなの?

なんて野暮な質問はできなかった


音もない 色もない

時間もない 物語もない

そんな世界で

君は好きと言ったのだ

論理的に整理しようとしている自分が

馬鹿らしくなった


きっと好きという感情に

要素なんてないんだ


気が付くと

僕のホットワインは

一口も飲まないまま

冷めていた

無意味な思考が宙を舞う