コトバ 写真

好きという感情

深夜に再放送で流れた

白黒の無声映画


1920年代という

狂騒の時代背景の中で

若者が明るく奮闘する群像劇


君は二人がけの赤いソファに座って

レモンを浮かべたホットワインを飲みながら

静かに画面を見つめていた


15分くらい経った頃だろうか

君は消え入るような声で

この映画が好き

と言葉を漏らした


僕はある種の違和感を感じ

特に答えることはしなかった


僕は知っている

この映画は何とも言えない

悲劇的な結末を迎えることを


君のスマホは何かを受信したようで

さっきから赤い光が点滅している

でも君は目もくれない


映画は終盤となった

若者が全てを失って絶望する様を

大人たちが冷笑して幕を閉じる

やっぱりこの結末は後味が悪い


映画が終わっても

しばらく君は無言だった

そして

やっぱりこの映画が好き

と言った


僕は驚いた

この映画のどこが好きなの?

なんて野暮な質問はできなかった


音もない 色もない

時間もない 物語もない

そんな世界で

君は好きと言ったのだ

論理的に整理しようとしている自分が

馬鹿らしくなった


きっと好きという感情に

要素なんてないんだ


気が付くと

僕のホットワインは

一口も飲まないまま

冷めていた

無意味な思考が宙を舞う

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明日への布石

物事を評することは

いつだって誰だって

いとも簡単にできる


リアルタイムで情報が流れる現代で

情報は秒単位で腐敗していくから

そんな時代を生きる僕たちは

たくさんの便利な機器やツールを駆使し

すぐさま自分の考えを表現する


けれど

評することは重きこと

時に人を傷つけ

時に人を誤らせる

貴方の言葉は明日への布石


時間に追われるのもいいけど

貴方の言葉の重みを噛み締めて

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えらい

いい加減にして

貴方の話を聞いていると

私まで気が滅入ってしまう


と言いたい気持ちを

かれこれ一時間ほど

我慢している

えらい私

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せい

君が声をかけてくれなかったから

忘れ物をしちゃったとか


君がここに物を置いたから

転んでしまったとか


君は何でも人のせいにしたがる


確かに一見

人のせいにした方が

楽に見える


だけど

人のせいにするより

自分のせいにした方が

はるかに楽


それでも

人のせいにしたいなら

このあと面倒事が起きる

覚悟をしてください

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謝る

謝りたいっていうけど

許してもらうことが前提でしょ

でなきゃ謝ることに何の意味があるの

だからもう君には会わない

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納得

納得とは

自分を誤魔化すこと


それでいいの?

納得したら敗けだよ

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ひとり

映画館で観客がひとり

独り暮らしで部屋のこたつでひとり

どちらが寂しさを感じる?

結局 寂しさは捉え方次第

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信じること

何でも知りたがろうとするけど

知ることと信じることは違う


信じることができるって

すごく幸せなことだと思う

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錆び

新品は

何もしなくても

ただただチヤホヤされる

新しいだけでそれでいい


僕はもう新品じゃない

身も心も錆びてしまった


不安 焦り 妬み 怒り

悔やみ 苛立ち 辛抱 孤独

汚い空気にさらされて

身も心も錆びてしまった


だから油をさしてでも

這いつくばってでも

とにかく全力で生きなければならない


そうでなければ

ただ捨てられるだけ

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充電

電気は充電できる

元気も充電できる

充電器を見つければいいだけ

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景色

トントン カンカン

今日も工事現場のひとたちは

巨大なコンクリートで

空を覆う景色を

一生懸命作るのでした


変わらぬ景色を

求める心は変わるもの


空を覆う景色も

次の世代は

守るべき景色となるのです


コトバ 写真

素直

夏は設定温度16度

だって暑いんだもん

冬は設定温度30度

だって寒いんだもん

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微熱

一時的な高熱から

慢性的な微熱へ

それが生涯を共にする理由

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虹色の雨

傘を置いて

虹色の雨を浴びよう

きっとこの世界は

思っているより美しい

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眠れない夜は

あなたの手を握る


あなたの暖かい体温に

優しさが混じって

ゆっくりと伝わってくる


必ずあなたは先に寝てしまう

夢の何処かに旅立って行く

私は現実世界においてけぼり


でもあなたの寝顔を見れるから

これはこれでいいのかも

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シャンプー

お風呂あがりに

君の長い髪から薫る

シャンプーの匂い


君がつける

どんな香水よりも好き

コトバ 写真

甲と乙

できる人にはわからない

できない人の苦しみ


できる人は

無意識に

できない人を傷つける

コトバ 写真

枯れる

枯れた心

もう水をあげても

元には戻らない

コトバ 写真

行方不明

咄嗟に隠した

あの日の本心

どこに仕舞ったっけ


たぶんもう見つからない


行方不明になった本心は

今までいくつあっただろうか

コトバ 写真

ミニチュア

貴方が作った

ミニチュアの中で

私は生きている


外の世界を

私は知らない


だから貴方が私の全て

コトバ 写真

試食品

私は試食品

貴方の決断を待ち続ける

だから私は

いつも笑っていなければならない

コトバ 写真

透明

私は透明

貴方の瞳に私は写らない


貴方は弱い人

さようならを言う勇気を

持ち合わせていない人


私も弱い人

全てを知っていて

それでもいいと思ってしまう人


私は透明

もう色を望まない



コトバ 写真

覚醒剤

当たり前は覚醒剤のようなもの

常習犯は感謝を忘れてしまうため

治療が必要です

コトバ 写真

ハプニング

単調な毎日の繰り返しに

もううんざりだと君は言うが


最低気温が前日から5度下がったことも

昨日と同じ時間に時計を見てしまったことも

お菓子のおみくじでアタリだったことも


きっとこの世界は

ちょっとしたハプニングの連続でできている


それに気付くことができれば

充分刺激的な毎日だと思う



コトバ

誓う

誓うこと自体には

ほとんど意味はない


だけど

本当の苦労に出逢ったとき

誓った言葉が

心の中で何度も繰り返される


そのときはじめて

誓うことの意味が

発揮されるのだと思う


コトバ

特別な日

いつもおしゃべりな僕だけど

今日は特別な日だから

誰にも教えない

コトバ

ファンデーション

東京駅の八重洲口

21時ちょうど発の

大阪行き深夜バスに乗り込む


席は指定席で

トイレの目の前

ちゃんと確認すればよかった



駅弁というには

ひどくお粗末で

鮭のおにぎりと緑茶のペットボトルを

鞄から取り出す

でも食べる気がしない


喪服はクリーニング代が高いから

シワにならないよう

丁寧にジャケットを畳んで

隣の空いている席に置く


この世の中から

一人の人間がいなくなっても

地球の自転は変わらない


いくらたくさんの悲しむ人間がいても

昨日と同じように

機械的に朝日は昇る


でも

さっき落としたファンデーションは

粉々になって壊れていた

たった一回落としただけなのに

もう元には戻らない

コトバ

ベビーオイル

カサカサに乾燥した心

ベビーオイルの潤いを

コトバ

懺悔

ご迷惑おかけした皆様

大変長らくお待たせしました

懺悔のお時間です

コトバ 写真

サラダ

真実だけで作られたサラダ

ドレッシングはお好みで

コトバ

ダンボール

ダンボールに詰まっていたのは

野菜ではなく優しさでした

コトバ

赤い屋根の家

欅の並木道を

一本入ったところに

赤い屋根の家があった


庭もきちんと手入れがされていて

この季節には薔薇のにおいが鼻をかすめた


その家は

年老いたおばあちゃんがひとりで住んでいる


おばあちゃんは占いが得意で

小さい頃はよく遊びに行った


いつも笑っていて優しくて

帰りにいつも黄色い包み紙の飴をくれた


今日会社の近くのスーパーで

あの黄色い包み紙の飴を見つけた


あの赤い屋根の家はもう今はない

いつも空車のコインパーキングになっている


だけど駐車場の一角に花壇が設けられていて

数本の薔薇が咲いているんだ


今日久しぶりにこの場所に立ち寄った

かすかな薔薇のにおいの中で

あの飴を舐めて

おばあちゃんにさようならを言った