東京-大阪間の車内にて

2010年3月22日月曜日

コトバ

東京-大阪間の車内にて

眠りもせずに窓を見る



昨日買ったガムを噛もうとしたけれど

鞄の中に散乱していたから

噛もうとした気持ちさえなくなった



名古屋駅で停車すると

ホームにマスクをした老婆がいた

そうかそろそろ花粉が飛ぶ季節かと

花粉症が酷かった君のことを思い出す

こんなにも春の日差しが気持ちいいのに

そう言って無理矢理窓を開けようとする僕を本気で嫌がった

思えばそんな些細なことでも君を理解しようとしなかったんだ



老婆が姿を消した頃

ゆっくりと新幹線は走りはじめた

窓はすぐに目まぐるしく移り変わる景色を映し出した

きっと僕は忙しさという速さに甘んじて

この一瞬しか映らない景色と同じくらいしか

君のことを見つめていなかったんだと思う

君の顔を思い出せない日々に何も違和感はなかったんだと思う


だから君はいなくなった

どこかの停車駅に君を置いてきた

それすらも気づかなかった


東京-大阪間の車内にて

もうすぐ大阪に着くとの案内が車内に流れる

でてくれるかわからないけど

駅に着いたら君に電話をしてみよう

鞄に散乱したガムを

集めてポケットにしまった

降りる準備は整った



東京-大阪間の車内にて

花粉は窓に遮られ

暖かな春の日差しだけが注ぎ込む